本日はケニー・クラークです。彼は"バップ・ドラムの開祖"と言われ、40年代のビバップ・ムーブメントに貢献。また、1952年にミルト・ジャクソン、ジョン・ルイス、パーシー・ヒースとモダン・ジャズ・カルテット(MJQ)を結成し、1955年にコニー・ケイにその座を譲るまで初代ドラマーの座にありました。ただ、1956年にパリに移住し、その後はヨーロッパを拠点に活動を続けます(そのあたりの経緯は「ザ・ゴールデン・エイト」参照)。
今日ご紹介する「テレフンケン・ブルース」は彼がヨーロッパに渡る前年の1955年にサヴォイ・レコードから発表した作品。内容は2つのセッションの組み合わせで、前半4曲が1954年11月の西海岸録音、後半4曲が1955年2月の東海岸録音です。タイトルのTelefunkenとはドイツの電機メーカーで、音響機器、特にマイクで有名な会社だったそうです。ジャケットも良く見ると金髪美女がマイクの上にちょこんと座っています。この辺りのシュールで珍妙なジャケットセンスはサヴォイ・レコードならではという気もします。
メンバーは前半の西海岸セッションがフランク・モーガン(アルト)、ウォルター・ベントン(テナー)、ミルト・ジャクソン(ヴァイブ)、ジェラルド・ウィギンス(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)と言う布陣。ピアノがジョン・ルイスに代わればMJQが勢揃いしますが、それよりも注目はフランク・モーガンでしょうね。西海岸でプレイしていた黒人アルト奏者でワーデル・グレイらとの共演で名を上げ、一時はチャーリー・パーカーの後継者に推す声もありましたが、このセッションの翌年に麻薬で逮捕され、ジャズシーンから姿を消します。モーガンはその後30年ものブランクを経て1985年にシーンに復帰し、2007年に亡くなるまで20枚ものアルバムを残しますが、若い頃の録音は非常に貴重です。テナーのベントンも録音数は多くないですが、クリフォード・ブラウンの「ベスト・コースト・ジャズ」に参加していますし、後にリヴァーサイド傍系のジャズランドに1枚リーダー作を残しています。
後半の東海岸セッションはヘンリー・コーカー(トロンボーン)、フランク・ウェス(テナー&フルート)、チャーリー・フォークス(バリトン)、ミルト・ジャクソン(ピアノ)、エディ・ジョーンズ(ドラム)と言うラインナップ。勘の良い方ならおわかりのようにフロントラインは当時のカウント・ベイシー楽団の面々。ベースのジョーンズもそうですね。そこにMJQの盟友ミルト・ジャクソンが加わりますが、何とここではヴァイブではなくピアノを弾いています。サウンドもベイシー風のスイング・ジャズでビバップ色の強い前半4曲とは趣が異なります。

全8曲、スタンダードは1曲もなく全てオリジナル曲です。オープニングトラックはクラーク作の"Strollin'"。これぞビバップとでも言うべき痛快なナンバーで、モーガン→ミルト・ジャクソン→ベントンと快調にソロをリレーします。2曲目はジェラルド・ウィギンスとの共作”Sonor”。後にクラーク=ボラン・ビッグバンドでも演奏するなどクラークの代表曲となっています。レイ・ブライアントもプレスティッジ盤でカバーしてましたね。その後は文字通りブルージーな”Blue’s Mood"、エロール・ガーナー作曲の痛快バップ”Skoot”と続きます。演奏面で目立つのはパーカーを彷彿とさせるような素晴らしいアルトを聴かせるフランク・モーガンといつもながら縦横無尽のマレット捌きを見せつけるミルト・ジャクソンですね。リーダーのクラークはと言うと長々とドラムソロを聴かせる場面はありませんが、キレのいいドラミングで演奏を引き締めています。
後半は一転して3管編成によるベイシー風のスイングジャズで、アレンジャーのアーニー・ウィルキンスが4曲とも作曲・編曲を担当しています。トロンボーンとバリトンサックスが入っているので、重低音の響きが印象的ですね。おススメはタイトルトラックでもある”Telefunken Blues”で、フランク・ウェスが最初はテナー、ピアノソロを挟んでフルートでもソロを取ります。ピアノを弾くのはミルト・ジャクソンですが、ファンキーなヴァイブに比べると大人しめです。少しベイシーを意識しているのかもしれません。続く"Klook's Nook"もアップテンポの楽しい曲で、ヘンリー・コーカーのトロンボーンが活躍します。ちなみに曲名にあるKlookとはクラークのニックネームだそうです。"Baggin' The Blues"はこってりブルースでソロ一番手はチャーリー・フォークスです。ベイシー楽団不動のバリトン奏者として20年以上在籍し、60枚以上のアルバムに参加したフォークスですが、ソロを吹くことはあまりないのでここでのプレイは貴重ですね。ラストの"Inhibitions"はマイナー調のバップです。ケニー・クラークのサヴォイ盤はキャノンボール・アダレイのデビュー作として知られる「ボヘミア・アフター・ダーク」があり、そちらの方が名盤特集に掲載されることが多いですが、個人的には本作の方が充実の内容だと思います。