ハードバピッシュ&アレグロな日々

50~60年代のジャズを中心におすすめCDを紹介します

チャーリー・パーカー/サヴォイ・レコーディングス(マスター・テイクス)

チャーリー・パーカーがジャズ史上最も重要な人物の1人であることは少しでもジャズをかじった人なら"常識"だと思いますが、一方で彼の作品をじっくり聴いたことがある人は意外と多くないのではないでしょうか?私も実はその口でジャズ初心者の頃はパーカーの名前は当然知っていてもCDは全く持っていませんでした。理由は単純で時代が古すぎてそもそも作品の数自体が多くないから。残された作品も録音状態は良くないですし、演奏時間も2分~3分と短い上に、いろんなセッションの寄せ集めで何となく敬遠しちゃうんですよね。

私が遅ればせながらパーカーをちゃんと聞くようになったのは40代になってからで、特に2枚組の「チャーリー・パーカー・ストーリー・オン・ダイヤル」でようやくパーカーの偉大さを理解できたような気がします。このCDはパーカーの全盛期だった1940年代後半の名演を多く収録しており、パーカーを知るにはマストアイテムです。となると次は同じく絶頂期のパーカーをとらえたと言われるサヴォイ盤を入手したくなりますが、これがなかなか一筋縄ではいかない。このサヴォイ盤、日本でも何度かCD化されているのですが、その多くが別テイクも含めたコンプリート・レコーディング集。同じ曲の別テイクが4~5曲も入っており、CDも4枚組と言う大ボリュームです。こうなるとなかなか食指が動かない。余程のマニアならともかく、普通は同じ曲は何度も繰り返し聴きたくはないですよね。と言うわけでダイヤル盤を購入して約10年後、ようやくサヴォイ盤のマスターテイクばかりを集めた中古CDを発見してゲットした次第です。2枚組収録で全30曲。なかなかのボリュームですが演奏時間はどれも2~3分程度ですし、何より別テイクがないのですっきりしています。

まずは1944年9月15日のセッション。これはスイング期から活躍するギタリストのタイニー・グライムス名義のセッションで、パーカーは客演です。他のメンバーもクライド・ハート(ピアノ)、ジミー・バッツ(ベース)、ハロルド・ウェスト(ドラム)と全く知らない人達で、彼らの演奏は完全にスイングスタイルです。とは言え、1曲目"Tiny's Tempo"ではのっけからパーカーが目の覚めるようなソロを披露し、圧倒的な存在感を見せつけます。ただ、2曲目"I'll Always Love You Just The Same"、3曲目"Romance Without Finance"はどちらもタイニー・グライムスがヴォーカルを取る歌モノで、パーカーのソロも挟まれはするものの、あまり目立ちません。ラストの"Red Cross"がようやくパーカーの自作曲ですが、これもパーカーはともかく他のメンバーは全員スイングジャズです。

続いて1945年11月26日のセッションでここから当時19歳の新人トランペッター、マイルス・デイヴィスが加わり、一気にビバップ色が強くなります。ドラムにも21歳のマックス・ローチが起用され、以後マイルスとローチの2人はサヴォイ・セッションの全てに参加し、不動のメンバーとしてパーカーをサポートします。なお、ピアノにはバド・パウエルが急遽参加できなくなったため、盟友のディジー・ガレスピーがピンチヒッターで参加。途中からサディク・ハキムに交代し、本職のトランペットでも何曲か吹いているようです。ベースはカーリー・ラッセルです。

演奏の方ですがまずは5曲目が"Warming Up A Riff"。これはスタンダードの"Cherokee"を下敷きにした"Ko-Ko"のリハーサルからパーカーのソロだけを抜き出したもの。なのでイントロもなく突然始まり最後もフェイドアウトで終わりますが、パーカーのソロ自体は文句なしに素晴らしく、2分半にわたって閃きに満ちたアドリブを繰り広げます。10曲目の”Ko-Ko”はリハーサルではない本番の演奏で、こちらの方がメンバー全員の演奏が楽しめますが、パーカーのソロ自体は”Warming Up”の方が評価が高いです。他は”Now’s The Time""Billie's Bounce"と言ったパーカーの代表曲、後に”Anthropology”の曲名で知られる”Thriving From A Riff”が収録されています。これらの曲では若きマイルスもソロを取りますが、何となくまだ控え目の印象です。"Meandering"はバラードで"Embraceable You"を下敷きにした美しい曲ですがなぜか途中でブチッと終わるのが玉にキズ。

1947年5月8日のセッションはピアノに前回はドタキャンしたバド・パウエル、ベースはトミー・ポッターという顔ぶれ。やはりパウエルのピアノが加わると演奏が引き締まります。曲目も”Donna Lee””Chasin’ The Bird""Cheryl""Buzzy"と全て後にジャズスタンダード化する定番曲ばかりで、聴いていてワクワクします。パーカーはもちろんのこと、マイルス、パウエルのソロも快調で、サヴォイの全セッションの中でも屈指の充実度だと思います。

 

続いてCDの2枚目。まず1947年8月14日のセッションですが、リーダーはマイルス・デイヴィスで、パーカーは客演扱いでなぜかテナーを吹いています。ピアノはジョン・ルイス、ベースはネルソン・ボイドです。曲もマイルスのオリジナル中心で、まずは”Milestones”ですが、後にモードジャズの始まりとされる1958年の有名な曲とは全くの別曲です。ただ、こちらの曲も十分に名曲で、後にブッカー・リトルらがカバーしています。2曲目"Little Willie Leaps"は軽快なバップ、3曲目"Half Nelson"はタッド・ダメロンの名曲”Lady Bird”をもとにした曲で後に「ワーキン」で再演しています。4曲目”Sippin' At Bells"はソニー・クラーク「クール・ストラッティン」でも演奏されていました。パーカーはテナーでも変わらず快調ですが、アルトの時ほどの輝きはない気がします。リーダーのマイルスに華を持たせたのでしょうか?

続いて1947年12月21日。再びパーカーがリーダー、マイルスがサイドに戻り、リズムセクションはデューク・ジョーダン、トミー・ポッター、ローチです。曲は"Another Hair-Do""Bluebird""Klaunstance""Bird Gets The Worm"でパーカーの中では比較的地味な曲が並びます。うち"Bluebird"はサム・ジョーンズ「ザ・チャント」でカバーされていましたが、他は見かけたことがありません。そもそも"Klaunstance"と"Bird Gets The Worm"はオリジナルと言いながら、基本メロディはスタンダードの"The Way You Look Tonight"と"Lover, Come Back To Me"ですからね。演奏自体は快調でパーカーとマイルスはもちろん、若きデューク・ジョーダンもフレッシュなピアノを聴かせます。

1948年9月18日と24日はピアノがジョン・ルイス、ベースがカーリー・ラッセル、後の3人は不動です。このセッションも素晴らしく、特に18日はパーカーの代表的名曲揃い。マンボリズムの陽気な”Barbados”、”後にマイルスが「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」でカバーしたAh-Leu-Cha”、疾走感溢れる”Constellation”、イントロが印象的なブルース”Parker’s Mood"と知っている曲のオンパレードです。24日のセッションは"Perhaps""Marmaduke""Steeplechase""Merry-Go-Round"で、うち陽気なメロディの"Perhaps"と"Steeplechase"がスタンダード化しています。特に後者は北欧の名門、スティープルチェイス・レコードの名前の由来になっています。"Marmaduke"と"Merry-Go-Round"は他ではあまり聞いたことがないですが、パーカーらしいバップナンバーです。

以上、全30曲のボリュームですが半分以上が馴染みのあるバップスタンダードで、原曲を知る意味でも非常に満足感が高いです。ただ、これも私が今までたくさんのジャズ作品を聞いて間接的にパーカーの楽曲に親しんでいたからで、ジャズ初心者の頃に聞いても同じような演奏ばかりに聞こえて退屈していたかもしれません。サヴォイ盤に到達するのにかなり回り道をしましたが、結果的にはこれで良かったのかも?