モダンジャズのレコードジャケットと言えば美しいデザインのものが多く、それだけで一つのアートと呼んでいいぐらいですが、その一方で何じゃこりゃ?と思うものも多くあります。特にサヴォイ・レコードは珍ジャケットの宝庫と言って良く、単に楽器をドーンと描いただけだったり(ミルト・ジャクソン「オパス・デ・ジャズ」、フランク・ウェス「オパス・イン・スウィング」)、美女を使った珍妙なデザインだったり(ケニー・クラーク「テレフンケン・ブルース」etc)で、同時期のブルーノートやプレスティッジのような芸術性の高いジャケットは皆無と言って良いでしょう。今日ご紹介するアート・ペッパー「サーフ・ライド」もその代表格。収録曲でペッパーの代表曲である"Surf Ride"をタイトルにしたのでしょうが、サーフィンを楽しむ金髪ギャルをドーンと持ってくるセンスには絶句します。しかも絵がチープで顔も大して可愛くないし!
ただ、このアルバムは多くのジャズ評論家からペッパーの代表作として紹介されており、私もジャケットに目をつむって購入したのですが、内容はさすが評判に違わぬものでした。録音はわりと早く1952年から1954年にかけて。ご承知のとおりペッパーは麻薬トラブルで何度も演奏活動を中止していますが、最初に服役する前の20代後半の時の演奏です。この頃のペッパーはスタン・ケントン楽団在籍時の演奏がレコードに残ってはいますが、リーダー作は本作と同じくサヴォイ盤の「トゥー・アルトズ」(こちらも2本のサックスがドーンと写った珍ジャケット)のみです。この後、1954年から2年間の服役を終えて、1956年の「ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー」から1960年の「インテンシティ」までが一般的にペッパーの全盛期とされていますが、演奏スタイルはこの時点で確立されており、アドリブの切れ味と言う点ではむしろこの頃の方が上かもしれません。
セッションは3つに分かれており、まず1952年3月の録音がラス・フリーマン(ピアノ)、ボブ・ウィットロック(ベース)、ボビー・ホワイト(ドラム)を従えたワンホーンカルテット。1953年3月の録音も同じくワンホーンでリズムセクションはハンプトン・ホーズ(ピアノ)、ジョー・モンドラゴン(ベース)、ラリー・バンカー(ドラム)。そしてラストが1954年8月の録音でこちらはジャック・モントローズ(テナー)、クロード・ウィリアムソン(ベース)、モンティ・バドウィグ(ベース)、バンカー(ドラム)から成るクインテットです。

まず1952年のセッションの3曲。オープニングはレスター・ヤングの"Tickle Toe"でペッパーが軽快にソロを取ります。後にチェット・ベイカーとの共演で名を馳せるラス・フリーマンのピアノソロも快調です。続く"Chili Pepper"はペッパーのオリジナルですが、おそらく"Tea For Two"を下敷きにした陽気な曲です。3曲目"Susie The Poodle"はこのセッションのハイライトで、のっけからペッパーが畳み掛けるような高速アドリブでグイグイ引っ張ります。超ハイテンポにも関わらずメロディラインが全く崩れないのが凄い!
続いて1953年のセッションの3曲。こちらは全てペッパーのオリジナルで"Brown Gold""Holiday Flight""Surf Ride"です。うち後者2曲は1957年のオメガテープ盤「ジ・アート・オヴ・ペッパー」でも再演されており、ペッパーの代表曲と言って良いでしょう。とりわけ"Holiday Flight"は魅惑のメロディが次々と現れる名曲で、ペッパーのソロももちろん文句なしです。"Surf Ride"はタイトルとは裏腹にややブルージーな香りのする曲で、ハンプトン・ホーズの黒人らしいファンキーなピアノソロも良いアクセントになっています。
最後に1954年のセッションが6曲。こちらは何と言っても"Straight Life"が素晴らしい。後に名盤「ミーツ・ザ・リズム・セクション」でも再演され、ペッパーの自伝のタイトルにもなる彼の代表曲です。超高速テンポでまずペッパーが息もつかせねスピードでソロを披露。続くジャック・モントローズも負けじと付いて行きます。彼はテナー奏者と言うよりどちらかと言うとアレンジャーの印象が強いですが、ここではペッパーに触発されたのかかなり張り切っていますね。続くクロード・ウィリアムソンもさすが"白いバド・パウエル"と呼ばれただけの高速ソロを披露します。長さにして3分弱なんですが聴き終わった後に思わずブラボー!と拍手したくなる至上の名演ですね。続く"The Way You Look Tonight"も凄いです。本作で唯一の歌モノスタンダードですが、お馴染みのテーマメロディの後に繰り広げられるペッパーのソロがまさに天衣無縫と表現したくなる素晴らしさ。オリジナルからかけ離れた完全な即興演奏にも関わらず、あらかじめ譜面に書かれたような魅力的な旋律が次々と出てくる様は圧巻です。こう言う演奏を聴くとペッパーがタレント揃いのジャズ黄金期のジャズマンの中でも一握りしかいない"天才"だったことがわかります。残り4曲は"Cinnamon""Nutmeg""Thyme Time""Art's Oregano"とどれもスパイスの名が付いたペッパーのオリジナル。ペッパー=胡椒なので、シャレでしょうね。中では"Cinnamon"がなかなか魅力的な曲です。以上、ジャケットはダサいですが、内容は若きアート・ペッパーの唯一無二の天才ぶりをまざまざと見せつける傑作です。